彩度の高い色調で描かれた風景は、鮮やかさの中に翳りがあり、不穏な静けさが漂っている。それはここではないどこ
かを思わせる。
東京の都心で生まれ育った影山萌子は、自分自身と自身を取り巻く環境との間に生じるズレをきっかけにして絵を描い
ている。彼女にとってそれは、幼い頃から持ち続けてきた、身の回りの景色やそのありように対する好ましさや違和感
である。
ここ数年「内と外」「観光地」などに内容を絞り込み、絵と並行して制作している立体を組み合わせた展示を積極的に行っ
ている。絵と立体は、それぞれが独立したものとして在り、ふたつが在ることでお互いを客観視できるという。絵と立
体の関係を慎重に測りながら空間を構成し、自身の感覚にぴったりする状態を見極めることで、場所の成り立ちや人と
の関わりについて問いかけようとしている。
今回の展示は、都心から郊外に住まいを移したことで「移動」をきっかけにして制作しているという。扱う題材は状況
によって変化していくが、自分のいる場所を通して自身を見つめるという姿勢は、変わらずに作品に通底している。そ
れがより深まることを期待したい。
油絵学科研究室 小林孝亘